今回は、ITエンジニア・プログラマーのみなさんの心の健康に関する大切なお話です。
テクノロジーの進化において、ITエンジニア・プログラマーは不可欠な存在であり、複雑な課題に立ち向かう専門家です。しかしながら、この分野には固有の課題とプレッシャーが付き物です。
長時間のコーディング、プロジェクトの締切へのプレッシャー、学び続けることや変化への適応など。これらの要素が、時にストレスや精神的な負担を増大させ、鬱や適応障害のリスクを高めることがあります。筆者自身、SEとして入社した会社の3年目の頃、長時間労働によって適応障害を患った経験があります。
この記事では、筆者の経験を踏まえ、ITエンジニアの方々へ向けた鬱や適応障害についての理解と、その対処法としての認知行動療法を学んでいきたいと考え、筆者なりにまとめてみました。
鬱や適応障害に苦しむITエンジニアの皆さんに、お手伝いできれば幸いです。
下記の目次の通り、まずは鬱病と適応障害についての理解から入り、認知行動療法の理解、認知行動療法を用いた実践法について解説していきます。
鬱病とは何か
初めに鬱病とは、、?
鬱病(うつ病)とは、精神的な健康障害の一つで、長期間の憂鬱感や無気力感を感じる症状が特徴です。
鬱病患者は日常生活において興味を持たなくなり、活力を感じにくくなります。この病気は通常、睡眠障害、食欲の変化、自己評価の低下、持続的憂鬱感、エネルギー不足などを伴います。
鬱病は生活の質を著しく低下させ、社会的な機能にも影響を及ぼします。脳内の神経伝達物質の不均衡や遺伝的要因などが原因の一部とされています。
診断と治療は精神保健専門家の指導のもとで行われ、薬物療法や認知行動療法などが一般的な治療法です。
下記に鬱病の症状と治療法、やってはいけないことをまとめました。
適応障害とは何か
次に適応障害とは、、?
適応障害は、環境の変化やストレスに対処する能力を喪失したり、効果的に適応できなくなった状態を指します。
適応障害の症状は不安、抑うつ、身体的な不調、集中力の低下、社会的な孤立などが含まれ、通常は特定のストレス要因と関連して発症します。
この状態は時間の経過とともに改善しないため、適切な治療やサポートが必要です。適応障害は通常、環境の変化や人生の重要な出来事に適応できない場合に発生し、通常は特定のストレス要因が存在します。
反対に言うと、適応障害の場合は特定のストレス要因を除くことによって改善が見込めるとのことです。
特定のストレス要因として、ITエンジニアにとって最も分かりやすいのは、「長時間労働」や「プロジェクトの納期へのプレッシャー」「パワハラ上司」が挙げられますね。
それらを1か月から3か月ほど取り除いてあげることで症状を和らげることができます。
下記に適応障害の症状と治療法、やってはいけないことをまとめました。
特に、上記のやってはいけないことの1つに「自己診断や自己治療をすること」が経験上、最もやってはいけないと私は考えます。
私自身、適応障害の症状が出た際に、単なる疲れから来る症状だろうと自己判断をして病院に行くことを考えていませんでした。
1日、2日くらい睡眠を多く取れば良くなるだろうと、休みの日はひたすら睡眠をするという自己治療をしていましたが、かえって貴重な休日を無駄にしたという、虚無感から来る罪悪感に苛まれました。
その後、依然体調が良くなることはなく、そのような状態が6か月ほど続いてしまったために私は適応障害になってしまったのだと考えます。
大事なのは、おかしいなと思ったら躊躇わずにすぐに病院で診てもらうこと、そして鬱病や適応障害に対する考え方を変えることだと考えます。
鬱病や適応障害に対する考え方とは、それら病気が心の強さ弱さと無関係だということです。よく「忍耐力がない」から鬱病になるんだとかいうおじさんがいますが、そういうわけでは無く、そのおじさんが風邪を引くのと同様、たまたま周りの人間関係や仕事環境、生活環境、遺伝など、さまざまな要因が重なり、心の風邪を引いてしまっただけです。
鬱病や適応障害は心を鍛えて解決できる問題ではないです。どちらかというと物事に対する考え方を変えることが大切であると私は考えます。
両者の違いと共通点
鬱病と適応障害は精神的な健康の問題であり、いくつかの共通点があります。両者は患者に不安や抑うつ感をもたらし、日常生活に大きな影響を及ぼします。
両者の主な違いは次の通りです。
共通点は、両者が心の健康に影響を及ぼすこと、不安や抑うつ感をもたらすこと、そして適切な治療やサポートが必要であることです。正確な診断と治療は精神保健専門家の指導を受けましょう。
認知行動療法(CBT)の概要
認知行動療法(Cognitive-Behavioral Therapy, 以降CBTと呼ぶ)は、心理療法の一種で、患者の思考(認知)と行動を中心にして問題を理解し、改善を図るアプローチです。CBTは、患者がネガティブな思考や行動パターンを認識し、それらを肯定的なものに変えることを目的とします。
具体的には、不健康な認知パターン(「私は何事もうまくできない人間だ」と思い込むことなど)を特定し、問題解決スキルやストレス管理テクニックを学ぶことが含まれます。CBTは、さまざまな精神的な問題に適用され、通常、比較的短期間で効果を発揮します。
どのような問題に適しているか
CBTは幅広い精神的な問題を対処するのに適していることが知られています。具体的には、以下のような問題に対処するのに効果的だそうです。
<CBTが効果的な精神問題例>
- うつ病や適応障害:CBTはうつ病や適応障害の治療に広く使用され、患者のネガティブな思考パターンを変え、肯定的な思考と行動を促進します。
- 不安障害:一般不安障害、社交不安障害、強迫性障害(OCD)、およびトラウマ関連障害(PTSD)など、さまざまな不安障害に対してCBTは効果的です。
- 摂食障害:過食症や拒食症などの摂食障害の治療にもCBTが使用され、不健康な食事習慣や自己イメージを改善します。
- 中毒:アルコール依存症や薬物中毒の治療において、CBTは中毒行動を変えるのに役立ちます。
- 慢性疼痛:慢性的な疼痛(睡眠障害、食欲減退、味覚減退、体重減少など)の管理において、CBTは痛みへの対処方法を改善し、生活の質を向上させます。
では、上記の問題を対処するためのCBTの具体的な実施方法を次に紹介します。
認知行動療法(CBT)の具体的な実施方法3選
1. 【CBT実践方法】専門家に相談or自己学習
まず大前提として、CBTの効果的な実施において、専門家に勝るものはありません。自分でCBTを実践できない場合は専門家に指示を仰ぎましょう。お金をかけず、自分でCBTを実践しようと思う場合は後ほど紹介するYoutubeやWebサイトなどを通して学習しましょう。
1-1. 専門家に相談してCBT実践
専門家は患者の問題を評価し、適切なCBT戦略を考えてくれます。自分に合ったCBTを行い、効果的なCBTを行いたい場合は、まず専門家に診てもらいましょう。
専門家とのセッション中、患者は自己認識※1を高め、問題行動や思考のパターンを特定し、変える方法を学びます。専門家は患者の進捗をモニタリングし、必要に応じて戦略を調整する役割を果たします。
また、専門家は支援と指導を提供し、患者がセラピーセッションから学んだスキルを日常生活に適用する方法をサポートします。専門家との連携により、CBTが効果的な治療として機能し、患者が精神的な問題に取り組む手助けとなります。
※1...自分の感情、思考、価値観、性格、行動、強み、弱点など、自己に関する情報を収集し、その情報を用いて自分を客観的に評価することなどを指す
1-2. 自己学習してCBT実践
自分でCBTを実践する場合は、Youtubeや専門の書籍からの自己学習を通して実践してみましょう。
筆者自身は、主治医からは自己学習で十分だろうとの意見をもらったので、YoutubeやWebサイト上で学習して実践しました。
下記が参考にしたWeb上の参考資料になります。
<Youtube>
1. 認知行動療法について解説(基本、ロジカル思考)(精神科医がこころの病気を解説するCh)
2. 無料でできる認知行動療法(ワークブック)を紹介します(精神科医がこころの病気を解説するCh)
<参考Webサイト>
1. こころの耳(厚生労働省Webサイト)
2. こころのスキルアップトレーニング(精神科医・大野裕先生発案・監修Webサイト)
2. 【CBT実践方法】肯定的な自己対話
肯定的な自己対話は、鬱病や適応障害の人々にとって非常に重要なCBTです。これは、自分自身に対する言葉や考え方が影響を与えるという考えに基づいた対処法です。
ネガティブな自己対話、つまり自分に対して否定的な言葉や考え方を持ち続けることは、心の健康に悪影響を及ぼします。
肯定的な自己対話は、自分自身に対する優しさと理解を育むのに役立ち、自尊心を高めることができます。具体的な方法としては、ポジティブなアファーメーション(自己肯定の言葉や文句)、自分の成功や達成に焦点を当てること、自分の強みや良い側面を認識することがあります。
肯定的な自己対話は、精神的な健康をサポートし、ネガティブな思考パターンから抜け出すのに役立ちます。
以下に、ポジティブなアフォーメーションの実践方法例を10個挙げます。
<ポジティブなアフォーメーション実践方法例>
- 毎日のルーチンに組み込む: ポジティブなアファーメーションを毎朝、鏡の前で自分に向けて言う。例えば、「私は価値ある人間です」とか「自分を愛しています」と言うことができます。
- カードやメモに書く: ポジティブなアファーメーションをカードやメモに書いて、ポケットやバッグに常に携帯し、必要なときに読み返す。
- 音声録音: 自分がポジティブなアファーメーションを録音して、スマートフォンや音声プレーヤーで再生できるようにする。自分の声を聞くことで効果が高まります。
- 目標に合わせたアファーメーション: 目標や課題に合わせてポジティブなアファーメーションを行う。例えば、仕事関連の目標に焦点を当てる場合、「私は厳しい締切を守り、プロジェクトを効率的に完了させることができる」など。
- 感謝のアファーメーション: 感謝のアファーメーションを使って、日々の幸せや成功に感謝の気持ちを持つこと。例えば、「私は健康であり、家庭があることに感謝します」など
- イメージと結びつける: アファーメーションをイメージと結びつけること。例えば、自分が成功している姿をイメージしながらアファーメーションを唱えることができます。「困難も怖くない!成功の達成感を堪能してやる」など
- 仲間と共有: 友人や家族、または同じ患者同士でポジティブなアファーメーションを共有し、お互いに励まし合うこと。例えば、「私たちは互いの強みを認め合い、共に成長し続けよう」など
- リラックスした状態で行う: ポジティブなアファーメーションをリラックスした状態で行うこと。瞑想や深呼吸の後に行うことが効果的なアフォーメーションに繋がる。
- 肯定的かつ断定形で言う: アファーメーションは否定的な言葉を使わず、肯定的で断定的な言葉で表現する。例えば、「私は自信を持って行動します」と言うよりも、「私は自信に満ち溢れて行動しています」と言うことが効果的です。
- 継続的な実践: ポジティブなアファーメーションは継続的に実践することが大切です。毎日、定期的に続けることで、自己肯定感を向上させる助けとなります。
ポジティブなアファーメーションは、自己啓発やストレス管理に役立つ有用な実践方法です。自分自身に対する肯定的な言葉や文句を継続的に取り入れることで、心の健康と幸福感を向上させることができます。
3. 【CBT実践方法】ストレス管理とリラクゼーション法の理解
ストレス管理とリラクゼーションの方法は、鬱病や適応障害の人々が精神的な安定と心の平静を維持するために非常に重要です。ストレスはこれらの状態を悪化させる要因の一つであり、適切なストレス管理方法は必要不可欠です。これには、以下の方法が含まれます。
<ストレス管理とリラクゼーション法の例>
- 深呼吸と瞑想:深呼吸や瞑想の実践は、リラクゼーションを促進し、ストレスホルモンのレベルを低下させます。
- 適度な運動:適度な運動はエンドルフィンの放出を促し、気分を向上させ、ストレスを軽減します。
- 健康的な食事:バランスの取れた食事は身体と心の調子を整え、ストレスへの対処力を高めます。
- 睡眠の改善:十分な睡眠を確保し、質の良い睡眠を得ることは、ストレスを軽減し、心の健康をサポートします。
- 趣味やリラックス活動:趣味やリラックス活動に時間を割くことは、ストレスを減少させ、楽しみをもたらします。
認知行動療法(CBT)のワークブックやアプリの紹介
最後に、CBTのワークブックやアプリについて紹介します。ワークブックやアプリは、セルフヘルプと精神的な健康の向上に役立つ手段です。これらのツールを用いてCBTを実践し、日常生活に適用させましょう。
ワークブックやアプリの多くは、CBTの課題や練習問題を提供したり、支援とフィードバックを提供します。これらのリソースは専門家の指導や監修の基づいているため、効果的な自己ケアと治療補完の手段として役立ちます。
下記に代表的な認知行動療法(CBT)のワークブックや、アプリを紹介します。
<CBTワークブック参考書籍>
・若者のための認知行動療法ワークブック―考え上手でいい気分
<CBTワークブック参考Youtube>
・認知行動療法が自分でできるワークブック
<CBTアプリ参考>
・Awarefy
Awarefy は 「心をケアするスキルが身につく」デジタル認知行動療法アプリです。
引用:株式会社Awarefyのプレスリリース
誰にでも起こりうる「心の不調」に備えるためのセルフケアを、日常の中で手軽に実践できます。
自己理解を深める感情や調子のグラフ化、ネガティブ思考をやわらげるマインドフルネス瞑想、ストレス対処のコーピングリストなど、さまざまな機能を提供しています。
引用:株式会社Awarefy
これらのリソースを参考に、実際に認知行動療法(CBT)を実践してみましょう!
まとめ
今回は、ITエンジニア・プログラマーに起こりやすい病気の「鬱病」や「適応障害」などの精神疾患への理解とその対処法について筆者なりにまとめてみました。
筆者自身、システムエンジニアとして働き、適応障害に悩まされていた時期は、1か月ほどは何も考えることができない状態でした。会社や仕事のことを考えると理由もなく涙を流すことも多々ありました。
そんな時に、今回ご紹介した認知行動療法(CBT)を学び、実践してみたところ、徐々に考え方の癖が変わり、ネガティブ思考も減っていったように思えます。また、症状が良くなってからも継続的にCBTを行なったおかげで再発の防止にも繋がったと感じます。
認知行動療法は精神疾患の方だけでなく、全人類が学ぶべき思考と行動の癖づけ方法でもあると考えます。精神疾患が治癒したからといってCBT実践をやめるのではなく、継続して実践することで仕事やプライベートをより充実したものへと昇華させることができるでしょう。
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